副鼻腔炎
副鼻腔とは
「副鼻腔」は、顔の中央にある「鼻腔」という空洞を取り巻くように存在する空洞で、上から順に、額の奥の空洞を前頭洞、両眼の間の空洞を篩骨洞、頬の奥の空洞を上顎洞、鼻の穴の奥で頭蓋底にある空洞を蝶形骨洞といい、これらを総称して副鼻腔と呼んでいます。
副鼻腔はそれぞれ鼻腔と小さい穴(自然口)でつながっていて、普段はそこから空気が出入りしていますが、細菌やカビが鼻腔から侵入してくると、副鼻腔内部の粘膜が炎症を起こして、副鼻腔炎が発症します。
副鼻腔炎とは
副鼻腔の粘膜に生じた炎症を副鼻腔炎といい、鼻づまり、鼻水、後鼻漏(鼻水がのどに下がる状態をいう)、咳、などの症状を引き起こす病気で、頭痛や頬の痛み、嗅覚障害を伴うことがあります。
通常、かぜよる急性鼻炎に引き続いて起こり、細菌感染がおもな原因であることが多いのですが、 鼻腔内のアレルギーによる炎症に伴う副鼻腔炎もあり、これは好酸球性副鼻腔炎と呼ばれます。 また、歯の付け根(歯の根尖部)の炎症が直接副鼻腔(上顎洞)の粘膜に及んで上顎洞炎を起こすことがあり、これを歯性上顎洞炎といいます。この場合は鼻炎を伴わない点で通常の副鼻腔炎とは異なります。
副鼻腔の空洞内に膿がたまることが多いことから、かつては蓄膿症と言われていました。 現在は罹病期間で副鼻腔炎を分けて、炎症が急性期のものを急性副鼻腔炎、発症して3か月以上症状が持続しているものを慢性副鼻腔炎といいます。
急性副鼻腔炎
症状
急性副鼻腔炎は、かぜの経過中に生じる場合が多く、かぜでみられる症状(全身倦怠感、頭痛など)に加えて、黄色~青みがかった膿性の鼻水が出て、これはのどの方にも流れていきます(後鼻漏といいます)。
鼻腔や副鼻腔の粘膜が炎症によって腫れて、また鼻水の粘り気も多くなって、鼻づまりや嗅覚障害を引き起こします。
鼻腔内の粘膜が腫れると、副鼻腔が鼻腔につながっている穴(自然口と言います)はふさがれてしまいます。その結果、鼻腔と副鼻腔の間の換気がうまく行われなり、副鼻腔内部に発生した分泌物が鼻腔に排泄できずにたまって、副鼻腔内の圧力が高まるために、顔面の痛み、頭痛が生じます。
発熱、鼻出血が見られることもあります。
副鼻腔炎の罹患部位ごとに症状を示すと次のようになります。
- 急性上顎洞炎:頬部痛、頬部発赤・腫脹、
- 急性前頭洞炎:前頭部痛、
- 急性篩骨洞炎:眼窩痛、
- 急性蝶形骨洞炎:後頭部痛あるいは頭頂部痛
治療
1) 基本は薬物療法です。
すでに対症療法としてかぜ薬を飲んでおられる場合が多いですが、急性副鼻腔炎とわかった時点からは、細菌に対する薬である、抗生物質を服用開始します。
さらに、顔面の痛みや頭痛があれば消炎鎮痛薬を使います。
通常、鼻水の粘り気をゆるめて排泄されやすくするための粘液調整剤(カルボシステインなど)を組み合わせて使用します。
2) 処置・ネブライザー療法
耳鼻咽喉科ならではの治療法であり、これらの処置を併せて行うことによって、薬物療法単独よりも治療効果が上がります。
先に鼻処置を行い、必要に応じて副鼻腔自然口開大処置も行ったうえで、ネブライザー療法を行います。
先に鼻処置を行い、必要に応じて副鼻腔自然口開大処置も行ったうえで、ネブライザー療法を行います。
- 鼻処置:
鼻腔内の粘膜に血管収縮薬をスプレーして鼻腔粘膜の腫れをしずめ、吸引管を用いて鼻腔内に存在する粘り気のある膿性の鼻水を吸引除去する処置です。鼻腔内分泌物の排泄や換気の改善を目的としています。 - 副鼻腔自然口開大処置:
副鼻腔が鼻腔とつながっている穴(自然口)周辺粘膜の炎症による腫れをしずめる処置です。血管収縮薬や局所麻酔薬を用います。副鼻腔からの分泌物の排泄や換気の改善を目的として行います。 - ネブライザー療法:
抗菌薬や抗炎症薬などが含まれる溶液を微細な霧状にして(加圧噴霧)、患部である副鼻腔の空洞の奥の方まで到達させます。この方法では薬を効率よく直接患部に作用させることができる為、鼻の通気や鼻汁の排泄に役立ちます。また鼻・副鼻腔粘膜の腫れもしずめることができます。
ここに注意
副鼻腔炎の炎症が激しい場合には、副鼻腔の近くにある眼、脳、視神経に炎症がおよんで、眼や頭蓋内に重症な合併症を起こすことがあります。この場合は、強力な抗生物質の使用と、手術による排膿が必要です。
慢性副鼻腔炎
急性副鼻腔の炎症が3ヶ月以上続いた場合は慢性副鼻腔炎とみなします。
頻繁に風邪にかかったり、鼻や咽喉の炎症を繰り返すと、急性副鼻腔炎が軽快せずに慢性化することがあります。
偏食、環境、アレルギーなどの体質なども慢性化の原因として挙げられています。
鼻腔内部の形の変形(高度の鼻中隔彎曲症など)、遺伝的要因も関連があると考えられています。
症状
主な症状は鼻水、後鼻漏、鼻づまり、嗅覚障害などです。
ここに頭痛、頭重感など、鼻以外の症状が加わることがあります。
急性副鼻腔炎の場合と異なり、鼻の奥や顔面に激痛や鈍痛を生じることはほとんどありません。
鼻水は、膿を含んだ黄色いものや、白くてネバネバしたものが一般的です。
のどの方にネバネバした分泌物が流れ込む、後鼻漏という症状だけがみられることもあります。
炎症が長引くと、鼻粘膜は腫れたまま分厚くなって、ブヨブヨした粘膜のかたまりである、鼻茸になることがあります。こうなると鼻づまりは高度になり、持続的になります。
鼻づまりや後鼻漏により不快感が増して、仕事や勉強の際の集中力の妨げになります。いびきの原因にもなります。
鼻の奥に鼻汁がたまるので、これが原因で中耳炎を引き起こすこともあります。
のどに下がる鼻汁のために、咳や痰が続くことがあります。気管支炎を引き起こすこともあります。
治療
慢性副鼻腔炎は、数回の外来治療で治すことは難しく、治療期間はある程度長くなります。
鼻茸が存在する場合や、薬を飲んでいてもなかなか治らない場合には、手術が必要になることもあります。
1) 薬物療法
慢性副鼻腔炎でも、かぜを引いた後などに症状が急性に増悪した場合は、急性副鼻腔炎の場合と同じく、細菌感染に対する治療として抗生物質を内服します。
急性増悪期でない慢性副鼻腔炎に対しては、マクロライド系抗生物質少量長期投与療法がよく行われます。これは日本で開発された治療法で、はじめに難治性の慢性気管支炎に対して行われ、その有効性が高かったため慢性副鼻腔炎の薬物治療にも取り入れられ、そこでも高い有効性が確認された結果、広く行われるようになりました。マクロライド系抗生物質の中でも14員環マクロライド系抗生物質(エリスロマイシン、ロキシスロマイシン、クラリスロマイシン)にだけこの効果があり、抗菌薬として服用するときに飲む1日量の半分の量を、約3ヶ月程度、長期間続けて服用します。作用について詳しいことはまだよくわかっていませんが、14員環マクロライド系抗生物質には、直接的な抗菌作用のほかに、免疫機能を向上させたり、鼻汁の分泌を抑える効果があると考えられています。
このほかに、粘液調整薬もよく使われます。これには即効性はありませんが、長期的に内服することで、どのタイプの慢性副鼻腔炎に対しても、鼻汁の排泄を助け、補佐的に働きます。
ここに注意
マクロライド療法は、鼻粘膜の腫れよりも、鼻漏や後鼻漏の量や性状に対して効果が優れており、特に鼻茸に対しては、有効性が低いとされています。 また、好酸球が原因の慢性副鼻腔炎(好酸球性副鼻腔炎)にはマクロライド療法は有効でなく、ステロイドが有効です。
2) 処置・ネブライザー療法
- 鼻・副鼻腔にたまっている鼻汁を吸引する鼻処置
- 抗生剤等が入ったネブライザー治療
など、内容、目的は急性副鼻腔炎の場合と同様です。
3) 手術療法
薬物治療、鼻処置、ネブライザー治療等の保存的治療の効果は、一定期間後、副鼻腔のレントゲン撮影で判断します。画像診断で変化がなくても、自覚症状に改善が見られれば、効果があったと考えます。
症状が軽減しない次のような場合には、手術も検討します。(この場合は提携病院をご紹介します。)
- 性副鼻腔炎の病気の程度が中程度でも症状の強い場合や、その程度が高度の場合
- 慢性副鼻腔炎の程度が中程度で、薬物療法などの治療を半年間続けても、症状が十分改善しない場合
- 鼻の中にブヨブヨした粘膜のかたまりである鼻茸が大きくて、鼻づまりがひどい場合
手術の方法ですが、以前は上顎洞根本手術といって、口の中の歯肉部を切開して、上顎洞の前壁の骨壁を除去し、上顎洞内の病的粘膜をすべて除去する方法が行われていましたが、現在では、内視鏡を使って鼻内から行う内視鏡下副鼻腔手術(endoscopic sinus surgery : ESS)が広く行われています。これは従来の上顎洞根本手術と比べて、口の中を切らなくてよいなど手術を受ける人にかかる負担が少なく、術後に顔が腫れることもありません。
この手術(ESS)では、副鼻腔が鼻腔とつながる自然口を広く開大し、副鼻腔の換気と排泄を改善させます。空洞内の病的な粘膜は取り去らず、環境がよくなって炎症が回復するといずれ健全な粘膜に導かれることを目的とします。
そのためには、ESSでは手術を受けた後の治療が重要となります。具体的には、手術で広くした自然口が、血の塊や分泌物の固まったものでふさがったり、狭くならないように、手術後の状態が落ち着くまではしばらくの間通院の上、血液やかさぶたの除去などの洞内の清掃や、分泌物の吸引後、ネブライザー治療を行います。
この間、マクロライド療法、粘液調整剤の服用も併せて行います。
ここに注意
慢性副鼻腔炎では、手術治療がふさわしい場合であっても、手術を選択するかどうかについては、最終的には患者さん自身が外科的治療を望むか否かといった選択肢が残されています。
しかし、一側性~左右差が大きい病変の時は、上顎洞がん、副鼻腔乳頭腫などの腫瘍性病変、また、副鼻腔真菌症などである可能性があります。
こうした腫瘍性病変や副鼻腔真菌症が疑われる場合は、確定診断と治療の両方の目的で、手術が必要となります。