治療の実際 見てわかるのどの病気
- アデノイド・扁桃腺肥大
- 溶連菌感染による急性扁桃炎・急性上咽頭炎
- 急性上咽頭炎
- アデノウイルス性扁桃炎・上咽頭炎
- 伝染性単核球症
- 手足口病
- 単純ヘルペス
- 帯状疱疹
- 扁桃周囲炎・扁桃周囲膿瘍
- カンジダ症
- 慢性上咽頭炎
- 声帯ポリープ
- 声帯結節症
- 声帯嚢胞
- ポリープ様声帯
- 咽喉頭逆流症
- 急性喉頭蓋炎
- 喉頭白板症
- 喉頭がん
- 下咽頭がん
1. のどの内視鏡検査
のどの病気でよく見られるのは、扁桃腺の腫れや痛み、声がれ、咳などです。
口の中や扁桃腺は肉眼でも見ることはできますが、手術用顕微鏡で観察すると、詳細な観察ができる上に、顕微鏡にCCDカメラをつけていますので、画像を記録することができます。のどのもっと奥の方を詳しく見るには、軟性内視鏡(電子スコープ)を使います(⇒各種機器の画像はコチラ)。
当院では検査結果を静止画、動画ともにデジタル記録して、毎回患者さんに見ていただきながら、
現在の病状、これまでの経過、治療方法等について説明いたします。
2. のどの構造
「のど」と一口に言っても、図のように解剖学的には口腔、上咽頭、中咽頭、下咽頭、喉頭(声帯を含む)に分かれます。このうち上咽頭は、のどの天井部分を指しますが、そこは鼻の奥でもあり、上咽頭を患うと鼻や耳に症状が出ることがあります。特に上咽頭にあるアデノイドについては、鼻づまり感やいびきの原因にもなり、鼻の病気と関連性が強いので、鼻の病気のページに記載しています。
では、代表的なのどの病気の画像を見ていきましょう。
3. アデノイド・口蓋扁桃肥大
鼻の突き当りはのどの一番上にあたり、上咽頭といいます。
上咽頭には咽頭扁桃(アデノイドともいいます)、耳管扁桃などのリンパ組織があり、アデノイドが特に大きい状態を、アデノイド肥大といいます。扁桃腺は1歳過ぎから肥大し、5~7歳でピークとなり、その後は次第に退縮します。アデノイドは通常、幼児で最も大きく、成長とともに次第に小さくなりますが、大人でもアデノイドの遺残が見られることがあります。
アデノイドや扁桃腺が大きいと、鼻づまり、いびき、口呼吸を生じやすく、睡眠時無呼吸症候群を来すこともあります。また、肥大した扁桃腺がのどのスペースを大きく占めるために、食べ物の通り道が狭くなって、食べ物が飲み込みにくくなる(嚥下困難)ことがあり、こどもでは成長障害につながります。
睡眠呼吸障害や嚥下障害が顕著な場合はアデノイド切除や口蓋扁桃摘出術の適応になります
手術によって、直後からこれらの症状の改善がみられます。
●アデノイド肥大により、アデノイド切除術を受けた成人症例をお示しします。
アデノイド肥大(CASE 1)43歳男性
いびきと睡眠時無呼吸があり、さらに成人してから両側の滲出性中耳炎を反復しています。アデノイド肥大を認めたため、全身麻酔下で、アデノイド切除術を受けました。上咽頭にはアデノイドの両側に耳管扁桃というリンパ組織がありますが、この症例では耳管扁桃も肥大していて、耳管咽頭口を圧迫しています。通常、耳管扁桃は切除しないので、術後も耳管咽頭口の圧排は続き、滲出性中耳炎の軽快には至りませんでしたが、いびきが軽快し、呼吸がずいぶん楽になったとのことでした。
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左鼻腔から上咽頭を見ています。アデノイド(黄の円)と左耳管扁桃(青矢印)の肥大を認めます。(緑矢印:鼻中隔後端)
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アデノイド切除後8カ月。アデノイドが切除されて上咽頭の空間が広がった。
(緑矢印:鼻中隔後端、青矢印:左耳管扁桃)
●扁桃腺肥大により、摘出手術を受けた症例をお示しします。
口蓋扁桃肥大(CASE 2)5歳男児
普段から寝息が大きく、風邪などで、咽頭炎から急性扁桃炎も起こしやすく、鼻がつまると特に睡眠時無呼吸を来します。両側の滲出性中耳炎もときどき認められます。寝ているときのモニター(終夜トモグラフィー)で、睡眠時無呼吸症候群と診断され、両側口蓋扁桃摘出、アデノイド切除を受けました。
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両側扁桃肥大(黄の円)、アデノイド肥大による、鼻閉、睡眠時無呼吸症候群あり。
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術後4か月経過。
口腔内のスペースが広くなったのがわかります。手術を受けてからはから、鼻閉は軽快し、睡眠時無呼吸はなくなりました。
4. 急性扁桃炎・急性上咽頭炎
のどの粘膜やリンパ組織の炎症を咽頭炎といいますが、このうち扁桃腺(正しくは口蓋扁桃)の炎症については、扁桃炎といい、上咽頭に炎症の主体があるときは、上咽頭炎といいます。
急性扁桃炎は、ウイルス感染あるいは細菌感染により発症しますが、はじめから細菌感染で発症する例は少なく、ほとんどはウイルス感染に続発します。
細菌では、「A群溶血性連鎖球菌」がもっとも重要です。突然の38℃以上の高熱が出て、強いのど痛みで物を飲み込むのがつらくなり、扁桃、咽頭に「うみ」を伴った炎症が起き、食欲不振、全身倦怠感が見られ、首の前側のリンパ節が腫れる、などの症状があります。
当院では上記のような症状を示している扁桃炎の症例では、溶連菌の感染を疑って、溶連菌迅速診断キットを実施します。
●溶連菌迅速検査で陽性の症例を2つ、お示しします。
溶連菌感染では、扁桃腺や咽頭粘膜には発赤、腫脹に加えて、膿栓や白苔が見られます。ほとんどの場合、急性上咽頭炎を伴っています。
溶連菌感染による急性扁桃炎・急性上咽頭炎(CASE 1、2)
45歳女性。のどの痛みで受診。熱は出ていません。扁桃腺は赤く腫れて、陰窩(扁桃腺表面のくぼみ)の一部には白色の膿栓が見られます(青の円)。上咽頭にも膿を伴う炎症があります(赤の円)。
9歳女児。熱は37度。のどの痛みに加えて、右耳の痛みがあって受診。扁桃腺には白苔が見られ(青の円)、咽頭後壁リンパ節は赤く腫れており、点状の白苔が見られます(黄の円)。上咽頭の右側には膿を伴った炎症があり(赤の円)、右耳痛の原因と考えられます(関連痛といいます)。
ここに注意!
のどの粘膜が少し赤い程度の時でも、電子スコープで観察すると、上咽頭には膿を伴う急性炎症が認められることがあります。上咽頭は視診だけでは見逃されてしまう危険性があるので、のどに痛みのある時には電子スコープの検査が重要になります。
急性咽頭炎は風邪によるウイルス感染が多いですが、途中から細菌感染も併発していることも多く、細菌性が疑われる場合は細菌培養検査、溶連菌については迅速診断キットが診断に役立ちます。
●細菌培養検査から、溶連菌以外の細菌が原因と考えられた急性上咽頭炎症例を3つ(黄色ブドウ球菌が検出されたものを1例、インフルエンザ菌(注意:インフルエンザ菌は細菌であり、インフルエンザを引き起こすインフルエンザウイルスとは全く別物です)が検出されたものを2例)お示しします。
細菌感染による急性上咽頭炎(溶連菌以外)(CASE 1.2.3)
40歳女性。昨日38.6度の発熱あり。溶連菌迅速検査で陰性。咽頭後壁リンパ節の腫れ(黄の円)と、上咽頭には出血が混ざった膿がついています。培養で黄色ブドウ球菌が認められました。
23歳女性。昨夜38度の熱発。鎮痛薬で解熱。咽頭痛で受診。のどが赤く(黄の円)、上咽頭には点状出血と膿汁分泌(青の円)が見られます。溶連菌迅速検査は陰性。培養で黄色ブドウ球菌が認められました。
34歳女性。38.9度の高熱あり。インフルエンザ迅速検査は陰性。溶連菌迅速検査も陰性。咽頭後壁の粘膜発赤(黄の円)と上咽頭炎あり(青の円)。右扁桃腺には被膜に覆われた膿栓(赤の円)があります(慢性炎症所見)。培養でインフルエンザ桿菌が検出されました。
ウイルス感染では、アデノウイルス、EBウイルス、コクサッキーウイルス、へルペスウイルスなどが咽頭炎・扁桃炎を引き起こします。
かつて夏にプールを介して流行することがあったため、プール熱とも呼ばれていましたが、アデノウイルス自体には季節性がないので、プールの衛生環境が整うにつれて夏季に限らず流行がみられるようになりました。
39℃前後の高熱がでて、のどの痛みが強く、腹痛や下痢を伴うこともあります。化膿性でない結膜炎症状が見られる場合、咽頭結膜熱と診断されます。
確定診断にはアデノウイルス検出用キットが有用です(当院でも導入しています)。
●アデノウイルス迅速検査で陽性だった症例を3つ、お示しします。
アデノウイルス感染による急性扁桃炎・上咽頭炎(CASE1.2.3)
33歳女性。
38.5度の高熱と咽頭痛あり。咽頭には水疱(青の円)と扁桃腺の下極には偽膜(黄の円)が見られます。
14歳女児。
38~39度の高熱。のどの痛みが強く、扁桃には偽膜様の白苔が(黄の円)、中咽頭には水疱が見られます(青の円)。上咽頭は偽膜で覆われています。
17歳男性。
37.1度の微熱と、咽頭痛あり。咽頭壁と扁桃腺に水疱があり、上咽頭には偽膜様の白苔が付着しています。
アデノウイルス感染例の所見のように、ウイルス性の咽頭・扁桃炎では、軟口蓋の点状出血や出血斑、咽頭粘膜のびらん、口内アフタ、口唇炎、歯肉炎などの多彩な粘膜病変が見られることが多く、したがってこれらの病変があればウイルス感染が疑われます。
伝染性単核球症はEpstein Bar Virus(EBウイルス)の初感染による急性感染症です。こどもの時にかかると軽症ですが、成人ではのどの痛みが強く、発熱を伴うなど、症状が重くなります。口蓋扁桃(扁桃腺)は白い膜(儀膜)におおわれ、くびには後ろの方まで多数のリンパ節の腫れが見られます。
●伝染性単核球症を3つ、お示しします。
伝染性単核球症(CASE1.2.3)
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12歳女児
37.1度の微熱とのどの痛みで受診。両側の扁桃腺は赤く腫れて、白苔がついています。 -
23歳男性
37.7度の発熱と、のどと首筋の痛みで受診。両側の扁桃腺に偽膜様の白苔があります。 -
20歳女性
38度の発熱と、のどの痛みで受診。両側の扁桃腺に偽膜様の白苔があります。
この3症例については、血液検査でEBウイルスの初感染であることがわかり、診断が確定しました。
手足口病はエンテロウイルス71やコクサッキーウイルスA群(10、16)の感染によります。6歳以下の乳幼児によくみられ、口の中に水疱ができ、発熱後または発熱と同時に手足に小さな水疱を伴った発疹がみられます。
●手足口病症例を1つ、お示しします。
手足口病症例 6歳女児
昨夜38度の発熱があり、発熱後、口の中の広範囲に水疱が見られ(黄の円)、同時に手と足にも水疱性の発疹が見られました。
単純ヘルペスウイルス(HSV)の口腔粘膜への初感染は通常乳幼児期~小児期に起こり、歯肉口内炎で発症することもありますが、症状が出ない、不顕性感染の場合も多いです。初感染後は終生、知覚神経節の神経細胞核中に遺伝子の形で潜伏し、発熱、紫外線、性交、歯科治療などの刺激やストレスで潜伏ウイルスが増殖して(再活性化)、発症(初発あるいは再発)します。
●単純ヘルペスウイルス(HSV)による口内炎の症例を2つお示しします。
ヘルペス性口内炎(単純ヘルペス初発例) CASE 1 46歳男性
1週間前から強い、のどの痛みと、熱っぽい感じがあり、3日前から抗生物質をもらっても症状が軽快しないとのことで受診されました。初診時の血液検査で単純ヘルペスIgG抗体価の上昇があり、IgM抗体価もわずかに上昇が見られましたが、46歳という年齢を考えると、初感染とは考えにくく、IgM抗体価の上昇は再発時にも見られることがあり、不顕性感染(感染しても症状が出なかった)後の初発(初めて症状が現れた)例と考えます。
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軟口蓋に融合した水疱が両側性に見られます(黄の円)。単純ヘルペスの口内炎初発例として抗ウイルス薬を開始しました。
ヘルペス性口内炎(単純ヘルペス再発例)CASE 2
3日前から口内炎ができて、数が増えて、痛みが強くなってきたとのこと。これまでもたびたび口内炎になっていたとのこと。単純ヘルペスの口内炎の再発例として抗ウイルス薬を開始しました。
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上下の唇と、舌に水疱が見られ、所々融合しています(黄の円)。
水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の初感染では水痘(みずぼうそう)になります。が、水痘発症後、すべての皮疹がかさぶたになるとその感染力は低下し、やがてVZVは三叉神経節や、脊髄後根神経節など、知覚神経系の神経細胞に潜伏感染します。その後何らかの誘因で、潜伏感染していたウイルスが再活性化して神経節内で増殖し、知覚神経系を下降し、片側性に帯状疱疹を発症します。赤い丘疹や水疱が神経の走行に沿って帯状に出現します。
●水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)による口内炎の症例を2つお示しします。
皮膚に特徴的な湿疹が出ていなくても、片側性の痛みを伴う口腔内の粘膜病変があって、その同じ側に強い耳痛や頭痛を伴っているときには、帯状疱疹が強く疑われます。
咽頭帯状疱疹 (CASE1.2)
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34歳女性
口内炎と、こめかみの左側だけ痛みます。
口蓋(上あご)の左側だけに発赤と水疱が見られます(黄の円)。 -
82歳女性
3日前から上あごが痛く、今朝は右耳がキリキリと痛みます。口蓋(上あご)の右側だけに水疱が集まり、一部融合しています(黄の円)。
5. 扁桃周囲炎・扁桃周囲膿瘍
急性扁桃炎の炎症がひどくなり、深い部位にまで広がって、口蓋扁桃をおおう被膜と咽頭収縮筋の間にあるすき間に炎症がみられるものを扁桃周囲炎、ここに膿(うみ)がたまった状態を扁桃周囲膿瘍といいます。点滴等で強力な抗菌を行いますが、すでに膿がたまってしまった場合はなかなか扁桃周囲の腫れが引かないため、膿がたまっているところに針を刺して膿を抜き取る(穿刺排膿)と、直後から腫れが引いて、痛みも軽減します。
●扁桃周囲膿瘍で、穿刺排膿を行った症例をお示しします。
扁桃周囲膿瘍 25歳男性
1週間前からのどが痛く、今朝から右耳も痛くなったため、受診。
細菌培養検査も扁桃表面のぬぐい液で行っていますが、で口腔内の常在菌だけが検出され、起炎菌の特定はできませんでした。すでに他院で抗菌薬投与を受けていたため、あるいは通常の培養検査では検出できない、嫌気性菌が原因だった可能性があります。
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軟口蓋の浮腫(黄の円)と、両側扁桃腺が腫れています(青の円)。
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翌日には左側扁桃の腫れは引きましたが、右側扁桃の腫れはなお強く、膿がにじみ出ています。
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右扁桃上部を局麻の上、穿刺して膿を2.8ml吸引(図右下)。穿刺直後から右扁桃腺の腫れは引きました。(黄矢印:穿刺部位)
6. その他の口腔疾患
口腔内には雑多な細菌がありますが、粘膜免疫、特に分泌型IgAにより、多くの感染症から防御されています。したがってカンジダなどの口腔内真菌感染症は日和見感染としての意味合いが強く、多くの場合抗生剤投与による口腔内細菌叢の変化、ステロイド等免疫抑制作用を有する薬剤投与などで発症します。
●カンジダによる口内炎の症例を3つお示しします。
カンジダ性口内炎 (CASE1.2.3)
いずCASE 1では、1か月前に抗菌薬を数日内服したことがあり、これが誘因だった可能性はあります。CASE 2では、急性扁桃炎で5日前から抗菌薬を内服中でした。扁桃炎には抗菌薬を変更して継続、同時にカンジダに対して抗真菌薬も開始していずれも治まりました。CASE 3では以前からカンジダは体調不良時に発症しやすく、今回は抗生物質内服をきっかけに、カンジダが再燃しました。いずれの症例も培養検査でカンジダ感染を確認しています。
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56歳男性
2か月来の後鼻漏で受診時に口蓋垂に斑状の白苔が見られました(青の円)。 -
32歳男性
軟口蓋と舌に白苔を認めます(青の円)。 -
82歳女性
頬部粘膜に黄白色の白苔を認めました(青の円)。
7. 慢性上咽頭炎
鼻の突き当りはのどの一番上にあたり、上咽頭といいます。
上咽頭には咽頭扁桃(アデノイドともいい、通常小児期に大きく、大人になると退縮します)などのリンパ組織が豊富に存在しているところです。
●まず上咽頭の健常例をお示しします。
上咽頭(健常例)
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65歳男性
健常な上咽頭では、粘膜に浮腫がないため、血管の走行が見えます(青の円)。右端に見えるくぼみは右耳管咽頭口です(青矢印)。
上咽頭は、風邪をひいたときなどには急性の炎症が生じやすく(急性上咽頭炎)、のどの痛みや膿がおりてくるなどの自覚症状があります。しかし、急性期の炎症が過ぎるとのどの痛みはなくなり、後鼻漏といって、ねばっとした粘液がのどに下がる症状があらわれますが、自覚上、鼻水がのどに流れたものと区別がつきません。実際、鼻が悪いと思って受診されたけれども、鼻は健常で、上咽頭の慢性炎症が原因だったということもあります。後鼻漏のほか、慢性の頭痛や、鼻づまり、いびきなどの症状が現れることがあります。
内視鏡(電子スコープ)で、上咽頭の粘膜表面がぶつぶつした顆粒状で、水っぽく膨れていたり、粘性~膿性の分泌物が付着しているような所見があるときは、慢性上咽頭炎と考えられます。
塩化亜鉛を付着させた綿棒で上咽頭をこすることで、診断と治療( 上咽頭擦過療法:EAT、通称:Bスポット療法。詳細はコチラ)が同時にできます。
●慢性上咽頭炎症例を3つ、お示しします。
慢性上咽頭炎(CASE1.2.3)
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64歳女性
関節リウマチで治療中。粘膜は分厚く、白色~黄色の粘性分泌物が付着しています(緑の円)。 -
50歳女性
風邪症状が治っても持続する後鼻漏の訴えで受診。上咽頭粘膜の浮腫と嚢胞(黄の円)が見られます。 -
24歳女性
常時、粘っこい後鼻漏があるとのことで受診。ぶつぶつした粘膜表面で、色調は蒼白。水様~粘性の分泌物が付着しています。
8. 喉頭疾患
喉頭には声帯という器官があり、声を出す働きがあります。声がかれているときは内視鏡で声帯の動きをよく観察すると、発生時に声帯のどの部分が傷んでいるかがよくわかります。
声帯ポリープは、腫瘍ではない隆起性の病変で、声を使いすぎた時や無理して大声を出したときなどに声帯粘膜の血管が破綻して声帯に粘膜下の出血が起こって発症します。
●声帯ポリープ症例を3つ、お示しします。
声帯ポリープ(CASE1.2.3)
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73歳女性
急に声が嗄れたとのことで受診。声を酷使した覚えはないとのことでした。右声帯に小さいポリープを認めます。ポリープがあると、発声時でも声帯同士の隙間が広くなって息が漏れて声が嗄れます。局所麻酔下のレーザー治療で治癒しました。
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45歳男性
1年前からの嗄声で受診。20年間の喫煙歴あり。気管支喘息でステロイド吸入中。喉頭微細手術を受けられました。 -
42歳男性
2か月前からの嗄声が治らないとのことで受診。声を出しすぎた覚えあり。喫煙歴は18年間。喉頭微細手術を受けられました。
声帯結節は、声帯の前方3分の1付近に生じる、小さな白色隆起性病変です。通常、両側の声帯に、左右対称に生じます。慢性的な声の多用、あるいは一時的な声の酷使により、声帯がよくこすれあう部分に循環障害が生じた結果、まず粘膜がむくみ、それに引き続いて“たこ”ができると考えられています。
●声帯結節症例を3つ、お示しします。
声帯結節症(CASE 1.2)
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29歳女性
幼稚園の保育士。1年前から声を酷使するたびに声がれを反復。今回は風邪ひいて、のども痛くなり、声も嗄れてきたとのこと。発声時には結節があると、声帯同士の隙間が広くなって息が漏れて声が嗄れます。声の安静に努めてもらって、経過観察中。
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10歳男児
小学校入学後からずっと声嗄れが続いている。音読や合唱、ドッジボールで大声を出している。大声を出さないように注意して、経過観察。
声帯結節症(CASE 3)21歳女性
1か月前からスーパーでレジのバイトを始めたころから声が出にくくなっており、風邪をひいてさらに声が出なくなったとのことで受診されました。初診時には声の酷使と風邪の関与で両声帯にわずかな隆起を認めました。半年後、風邪をひいて再び声が出なくなり、両声帯に浮腫と結節を認めたため、今回は厳重に沈黙を守るようにしてもらって、薬物治療をしながら経過観察となりました。声帯の浮腫と結節は徐々に軽快しましたが、のどを詰めるような発声の仕方にも問題があったので(機能性発声障害)、大学病院に紹介し、音声治療を受けてもらうことになりました。
声帯嚢胞は、声帯の中に袋状のものができています。
●声帯嚢胞症例を3つ、お示しします。
声帯嚢胞(CASE1.2.3)
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81歳男性
左声帯嚢胞(青矢印)。特に誘因なく声がれが発生。高齢で肺がん治療でもあり、局所麻酔下でレーザーによる嚢胞開放術を受けられました。 -
37歳男性
会社員。声がれについては特に気にしていなかったのでいつからかは不明。左声帯嚢胞(青矢印)に対して喉頭微細手術を受けられました。 -
69歳女性
詩吟の講師。2年前から嗄声あり。右声帯に小さい嚢胞(青矢印)があるが、本人は現在の音声に困っていないため、手術はせずに経過観察中です。
声帯が全長にわたって。むくんだように腫れた状態をいいます。声帯ポリープや声帯結節は声帯の一部に限られた病変ですが、ポリープ様声帯では声帯全体が変性します。多くの場合、両側に生じます。声の酷使との関連は指摘されておらず、患者さんにヘビースモーカーが多いことから、喫煙が原因といわれています。
●ポリープ様声帯症例を3つ、お示しします。
ポリープ様声帯(CASE1.2)
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41歳女性
4年来の嗄声あり。タバコは1日20本で23年間。酸逆流性喉頭炎による肉芽(黄矢印)と、両側声帯の強い腫れあり。この3か月後に喉頭微細手術を受けられました。 -
47歳女性
10年来の嗄声あり。タバコは1日20~30本で25年間。逆流性食道炎もあるため、胃酸を抑える薬物治療開始。禁煙にもトライしつつ、経過観察となりました。
胃酸を含む胃の内容物が食道やのどに逆流することが原因で、のどの症状が引き起こされている病態を、咽喉頭逆流症と呼びます。症状は、咽喉頭異常感(喉に何か詰まった感じ、イガイガする感じ)声のかすれ、咳や咳払いなどがあります。
咽喉頭逆流症の内視鏡検査での所見は,ほとんど正常のものから高度のものまで様々ですが、喉頭に肉芽を形成する、喉頭後方の粘膜(披裂間粘膜の肥厚)、披裂部粘膜の発赤や腫脹、唾液の貯留、などがあります。
●咽喉頭逆流症の症例を4つ、お示しします。
咽喉頭逆流症(CASE1.2.3)
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34歳男性 小学校教師。
声帯結節(緑矢印)と、胃酸逆流症で治療中。炎症性肉芽(黄矢印)が難治性で、この1か月後に生検、KTPレーザーを行って肉芽は縮小しました。炎症所見のみの結果でした。 -
72歳女性
十二指腸潰瘍、逆流性食道炎で薬物治療中。のどの症状はないですが、披裂間粘膜ひだのむくみ(青矢印)、肉芽が見られます(黄矢印)。 -
57歳女性
のどのイガイガ感があって受診。胸やけの治療中。のどの症状も酸逆流によるものと考えられます。喉頭後部の粘膜の腫れと(青矢印)、肉芽が見られます(黄矢印)。
咽喉頭逆流症(CASE 4)48歳男性
初診時の訴えは、電話の最中に時折声が嗄れるとのことでしたが、声が裏返ったようになるし、普段の会話で少し喋ると切れたようなのどの痛みがあるとのことで、3か月後に再診されました。内視鏡で見ると、左声帯に喉頭肉芽腫があり、咽喉頭逆流症を疑って胃カメラを受けてもらい、明らかな逆流性食道炎の所見はないが、びらん性胃炎の所見あり。胃カメラ後、すぐに胃酸を抑える薬(PPI)を開始してからは、のどの症状は少しずつ緩和し、肉芽腫も計3か月間の内服によって、縮小~消失に至りました。
初診時に赤味の強かった左声帯後方の部分(黄矢印)は、3か月後の再診時には肉芽を形成していました(喉頭肉芽腫:青矢印)。肉芽は声帯突起付近にあって、潰瘍形成を来していました。発声時には肉芽がこすれて、痛みがていたようです。
喉頭蓋とは、喉頭の前部にあり,食物を飲み込むとき下向きに倒れ、食物が食道に送られる時に気道にふたをして、食物が気管に入らないような働きをする舌状の突出物です。
ここに急性炎症が起こると、嚥下時の激しい痛み、喘鳴(ゼイゼイという音)を伴う呼吸困難、声のこもりが急速に起こります。喉頭蓋の腫れが高度になると、気道をふさいで、息ができなくなって、窒息死に至ることがあります。しかも、発症して短時間で症状が進みますので、上記のような症状が疑われたら、たとえ夜間であっても躊躇することなく、医療機関を受診してください。
●急性喉頭蓋炎の症例を3つ、お示しします。
急性喉頭蓋炎(CASE1.2.3)
55歳男性
2日前からのどが痛くなり、昨日は内科で点滴を受けるもよくならず、腫れと痛みで食べられない。緊急入院の上、点滴治療を受けました。(喉頭蓋浮腫:黄の円、披裂部浮腫:青の円)
33歳女性
5日前からのどが痛かったが我慢していた。唾をのむのも痛くなって受診。右扁桃周囲炎を起点に喉頭蓋(黄矢印)披裂部(赤矢印)に広がった。緊急入院の上、点滴治療を受けて軽快しました。
44歳女性
咽頭喉頭蓋ひだにある嚢胞(青矢印)から膿が出ており、ここから感染が周囲に波及したために生じた喉頭蓋炎と考えられます。緊急入院の上、点滴治療を受けました。
9. 腫瘍性病変
喫煙歴・飲酒歴のある中高年者では、咽頭がん、喉頭がんの発症するリスクが高いことが知られています。
がんの時に見られる症状としては、嚥下困難、のどの出血、嗄声(声のかすれ)などがあります。
こういった症状がある時には咽頭がん、喉頭がんの可能性を疑って、内視鏡(喉頭ファイバースコープ)等で詳細に観察します。
声帯上皮の病変が白く観察される状態で、主な症状は、嗄声(声のかすれ)です。原因としては声の酷使や喫煙などの声帯への慢性的な刺激、飲酒が考えられます。
白板症は前がん状態と考えられており、全身麻酔下に組織診断をする目的で手術的治療が行われます。レーザーによる病変部の焼灼が一般的です。当初の診断が白板症でも,術後に癌の診断が得られる場合もあって、その際は喉頭癌として治療をすすめます。
●喉頭白板症の症例を3つ、お示しします。
喉頭白板症(CASE1.2.3)
喫煙歴はCASE 1では1日20~30本を40年間、CASE 2、CASE 3では1日20本を40年間でした。飲酒歴ではCASE 1は毎日ビール350mlと焼酎300mlを飲み、CASE 3は毎日ワイン1本飲むとのことでした。CASE 1は自ら声のかすれに気づいて受診されましたが、CASE 2は自身で声がれを感じていましたが、胃カメラを受けた際に声帯の白斑を指摘されたので受診、CASE 3は扁桃炎で受診された際に行ったのどの内視鏡検査で異常が見つかり、声のかすれの自覚はありませんでした。このように、声帯に白斑が認められ、加えて喫煙歴・飲酒歴がある場合は喉頭がんのリスクは高いと考え、直ちに精査のために高次病院へ紹介となります。
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63歳男性
左声帯に白斑あり(緑矢印)。この1か月後、喉頭微細手術による切除を受けて、軽度異形成で悪性所見なし、との結果でした。 -
61歳男性
右声帯に白斑あり(緑矢印)。この2か月後に喉頭微細手術による切除とレーザー焼灼を受け、軽度異形成で悪性所見なし、の結果、でした。 -
61歳男性
右声帯全長に白斑あり(緑矢印)。この2か月後の喉頭微細手術中の病理検査で、隆起部は高度異形成、深部は軽度異形成で、病変部をレーザー切除、表面蒸散。
●喉頭がんの症例を1つ、お示しします。
喉頭がん 68歳男性
のどの痛みで受診。タバコは1日20~25本で43年間。缶ビール350を毎日2本飲むとのことでした。
喉頭にはひだ状の隆起が上下二対あり、上方を仮声帯、下方を声帯といいますが、このCASEでは、右側の仮声帯上に腫瘍が見られましたので、精査・治療のために、大学病院へ紹介となりました。喉頭微細手術の術中病理検査で扁平上皮癌の結果であったため、右仮声帯を広くレーザー切除の上、術後には放射線治療と化学療法も行っています。
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右仮声帯に腫瘍が見られます。(黄矢印)。右声帯にはポリープ(青矢印)、左声帯には嚢胞(緑矢印)あり。
●下咽頭がんの症例を1つ、お示しします。
下咽頭がん 55歳男性
のどの痛みと首のしこりがあり、このごろ食事をするときに痛みがあって、飲み込みづらいと感じるとのことで受診。タバコは1日10本で35年間、日本酒5合を週2回。下咽頭の右側には腫瘍を認め、右頚部には転移リンパ節の腫脹による硬いしこりを触れました。精査・治療のために、大学病院へ紹介となりました。
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下咽頭右側に腫瘍(黄の円)あり。即日、精査・治療のため大学病院へ紹介となりました。