アデノイド・口蓋扁桃肥大
のどにはリンパ組織が広く分布しています。
扁桃はリンパ組織が集まって大きくなったもので、外部から侵入してくる病原体を防御する役目を果たしています。中咽頭(あーんと口を開けたときに見える部分)の両脇には口蓋扁桃(扁桃腺)があり、突き当りには小さなリンパ節が集まっています。上咽頭(口を開けて見える部分よりもっと上ののど)には咽頭扁桃(アデノイド)、と耳管扁桃というリンパ腺があり、下咽頭(のどの下の方)には舌の付け根に舌扁桃というリンパ腺があります。このように多くの扁桃組織がのどを防御するように輪っか状に配置されていることから、「ワルダイエル咽頭輪」と呼ばれています。
このうち、アデノイド、扁桃腺が重要で、その大きさが肥大している時、細菌感染等で炎症が繰り返しおこる時には、様々な症状を引き起こすことになります。
1)アデノイド肥大(アデノイド増殖症)
アデノイドは5歳前後でピークとなりますが、8歳をすぎると次第に縮小し、18歳から20歳くらいでは、ほとんど認められなくなります。
アデノイドが大きいと鼻の奥をふさぐことになり、鼻づまりが強くなって口呼吸となります。いびきや睡眠時無呼吸の原因にもなります。さらに口呼吸が続くとアデノイド顔貌という”しまりのない顔つき”になります。
またアデノイドが耳管咽頭口(のどから耳につながる管の入り口)をふさぐことによって、鼓膜がへこんで、滲出性中耳炎を引き起こすこともあります。
睡眠呼吸障害の程度が強い時は、アデノイドを切除することを検討します。
滲出性中耳炎の治療の一環としてアデノイドを切除することもあります。
ただし、アデノイドは、切除してもまた大きくなることがあるので、手術後も治療効果が持続しているかどうか、経過をみることが大切です。
2)口蓋扁桃肥大(扁桃肥大)
扁桃腺は1歳過ぎから肥大し、5~7歳でピークとなり、その後は次第に退縮します。
扁桃には多くのくぼみがある分、表面積が広くなっており、外部から侵入してくる病原体である細菌やウイルスをより効率的に殺せるような構造になっています。仕組み上、外部から侵入してくる病原体に触れることが多く、抵抗力が低下していたり、急性扁桃炎を繰り返していると、炎症を起こしたり、肥大しやすくなります。
3)睡眠時無呼吸との関係
扁桃腺が大きいと、いびき、睡眠時無呼吸、口呼吸が見られます。乳幼児ではアデノイドも大きいことが多く、症状が重くなると、仰向けで寝ることができなくなって、横向きに寝る、首を後ろに反らせて口呼吸をして寝るなどの異常な睡眠体位をとるようになります。
睡眠障害の結果、日中の活動性が低下し、夜尿がみられたり、睡眠中の成長ホルモンの分泌障害から低体重、低身長につながることもあります。
また、肥大した扁桃腺がのどのスペースを大きく占めるために、食べ物の通り道が狭くなって、食べ物が飲み込みにくくなる(嚥下困難)ことがあり、こどもでは成長障害につながります。
★睡眠呼吸障害や嚥下障害が顕著な場合はアデノイド切除や口蓋扁桃摘出術の適応になります
手術によって、直後からこれらの症状の改善がみられます。
急性の咽頭炎・扁桃炎
通常“かぜ症候群”のひとつとして、のどやのみこむときの痛み、発熱や全身のだるさ、頭痛などの症状で発症します。急性に起こりますが、体調を崩して免疫力が低下している時や、細菌感染を繰り返したりすると、炎症が慢性化することもあります。
多くはウイルス感染が原因ですが、細菌が原因の場合もあります。
細菌感染が原因の場合は抗菌薬で治療します。
1)細菌感染による炎症
細菌のうち、「A群溶血性連鎖球菌」による急性咽頭・扁桃炎は、学校や家庭などで集団発生を見ることも多く、特に家庭内では兄弟間で高い感染率を示すことが知られています。
★溶連菌感染症では以下のような症状が見られます。
- 突然38℃以上の高熱を出すことが多い。
- のどの強い痛みで物を飲み込むのがつらい。
- 扁桃、咽頭に「うみ」を伴った炎症が起きる。
- 食欲不振、全身倦怠感がある。
- 首の前側のリンパ節が腫れる。
- 舌がイチゴのように赤くブツブツ状になることがある。
- からだや手足、口の中に小さくて赤い発疹が出ることがある。
当院では溶連菌の感染が疑われたら、のどから粘液をとってその場で調べられる、溶連菌迅速検査を実施します。この検査で陽性と判定されれば、溶連菌感染と診断し、抗菌薬を7~10日間のんでいただきます。
ここに注意
急性症状がおさまっても油断は禁物!
抗菌薬を服用すると2、3日目で熱が下がり、のどの赤みもとれ、症状はかなり回復してきて、一見治ったかのように思えますが、特に溶連菌の場合は特に決められた期間きちんと抗菌薬を飲み、治しておかないと、稀ではありますが、リウマチ熱や、急性糸球体腎炎を引き起こすことがあります。
お薬は、決められた期間、きちんと飲むことが大切です。
2)ウイルス感染による炎症
通常の風邪ウイルスやインフルエンザウイルスのほか、EBウイルスや、コクサッキーウイルス、アデノウイルスなどが原因になります。
伝染性単核球症
「Epstein Bar Virus(EBウイルス)」感染が原因です。こどもの時にかかると軽症ですが、成人ではのどの痛みが強く、発熱を伴うなど、症状が重くなります。
口蓋扁桃(扁桃腺)は白い膜(儀膜)におおわれ、くびには後ろの方まで多数のリンパ節の腫れが見られます。
ヘルパンギーナ
のどちんこのあたりに限局して水疱ができる咽頭炎です。4歳以下、1歳児に最も多くみられます。
手足口病
6歳以下、1~2歳の乳幼児によくみられます。
毎年7月頃がピークです。口の中ではほっぺたの裏や舌に水疱ができ、発熱後か発熱と同時に手足の表皮の分厚い部分に小さな水疱を伴った発疹がみられます。
咽頭結膜熱
プールでの感染が多く見られることから、プール熱とも言われますが、原因であるアデノウイルス自体には季節性がなく、最近では夏季に限らず流行がみられることがあります。確定診断にはアデノウイルス検出用キットが有用です(当院でも導入しています)。
結膜炎と咽頭炎をきたし、39℃前後の高熱がでて、のどの痛みが強く、腹痛や下痢を伴うこともあります。症状は3~5日間ぐらい続きますが、1週間程度で回復します。
これらはいずれもウイルス感染が原因ですが、インフルエンザウイルス以外には抗ウイルス薬はありません。二次感染が疑われるときには抗菌薬を使いますが、通常は解熱鎮痛薬などを使ってのど痛みや高熱をやわらげて、水分が取れているか注意しつつ、よく休養させて自然に治るのを待ちます。
習慣性扁桃炎と慢性扁桃炎
1)習慣性扁桃炎
急性扁桃炎を1年に4回以上、2年間に5~6回以上繰り返す場合を、習慣性扁桃炎と言います。小児期や青年期に起こりやすく、38~39度の高熱や、嚥下痛、口内乾燥感などの症状が現れます。小児期では扁桃が大きく腫れることで呼吸困難や言語障害などを訴えることがあります。2)慢性扁桃炎
急性扁桃炎の症状が治りきらずに、口蓋扁桃に炎症が続く場合を慢性扁桃炎といいます。成人に多くみられます。 のどが渇いて感じやのどの違和感、灼熱感、軽度の嚥下時痛、刺激物がしみるなどの症状があります。また微熱や疲労感などの自覚症状伴うこともあります。
3)病巣器官に炎症を引き起こす病気~扁桃病巣疾患
扁桃に慢性の炎症があるとこれら引き金になって他の遠隔部位に疾患を引き起こすこともあります。 代表的な疾患として、掌蹠膿疱症(皮膚の病気)、胸肋鎖骨過形成症(骨が増殖して鎖骨が痛む病気) 、IgA 腎症などがあります。 扁桃病巣疾患に対しては、当院では B スポット 療法にも取り組んでいます。
上咽頭炎
鼻とのどの間、ちょうど鼻の奥の突き当りで、口蓋垂(のどちんこ)の裏側の上を上咽頭といいます。
上咽頭は口を大きく開けても直視できる場所ではないので、炎症があっても見過ごされやすい場所で、診察は内視鏡を用いて行います。 上咽頭炎には、ウイルスや細菌感染による急性上咽頭炎、慢性鼻炎・慢性副鼻腔炎にともなう慢性上咽頭炎、上咽頭の分泌腺開口部にのう胞がある場合におこる「トーンワルト病」などがあります。
症状は、鼻とのどの間の痛みや違和感、乾いた感じのほかに、後鼻漏といって、粘性の分泌物が鼻の方からのどに流れるものが見られます。上咽頭の慢性炎症では、痛みはほとんどなく、唯一、後鼻漏が主な症状になります。
治療は、薬物療法(抗生物質、粘液調整剤、消炎剤)、ネブライザー療法など一般的な治療のほかに、当院では B スポット 療法にも取り組んでいます。
急性喉頭炎・急性喉頭蓋炎
ウイルスや細菌の感染で、咽頭炎とともに起こります。
1)急性喉頭炎
ウイルスや細菌の感染で、咽頭炎とともに起こります。
症状は、声がれ、咳、のどの痛み、違和感、発熱などです。
治療は、薬物治療(消炎鎮痛剤、咳止め、抗生物質など)、ネブライザー(吸入)治療を行います。声の安静~沈黙療法(声を出さないこと)も有効です。
2)急性喉頭蓋炎
喉頭蓋とは、喉頭の前部にあり,食物を飲み込むとき下向きに倒れ、食物が食道に送られる時に気道にふたをして、食物が気管に入らないような働きをする舌状の突出物です。
ここに急性炎症が起こると、嚥下時の激しい痛み、喘鳴(ゼイゼイという音)を伴う呼吸困難、声のこもりが急速に起こります。喉頭蓋の腫れが高度になると、気道をふさいで、息ができなくなって、窒息死に至ることがあります。しかも、発症して短時間で症状が進みますので、上記のような症状が疑われたら、たとえ夜間であっても躊躇することなく、医療機関を受診してください。
慢性喉頭炎・声帯ポリープ・声帯結節
急性喉頭炎の反復、声の酷使、副鼻腔炎による後鼻漏、汚染された大気や塵埃、煙、刺激性ガスの吸引、過度の喫煙・飲酒など、種々の原因から慢性喉頭炎となります。
慢性喉頭炎では声がれ、咳、のどの違和感が見られます。
診断は喉頭ファイバースコープという内視鏡検査によります。
1)声帯ポリープ
喉頭には声帯という器官があり、声を出す働きがあります。
声帯ポリープは、腫瘍ではない、隆起性の病変で、カラオケなどで声を使いすぎた時や無理して大声を出したときに、声帯粘膜の血管が破綻して声帯に粘膜下の出血が起こって発症します。
声帯ポリープが発生すると声が出にくい、かすれるといった症状が起こります。
2)声帯結節
声帯結節は、声帯の前方3分の1付近に生じる、通常は両側左右対称の小さな白色隆起性病変です。慢性的な声の多用、あるいは一時的な声の酷使により、声帯がよくこすれあう部分に循環障害が生じた結果、まず粘膜がむくみ、それに引き続いて“たこ”ができると考えられています
治療としては、原因に応じて下記のような治療を組み合わせて行います。
- 消炎剤などの投薬、ネブライザー治療(のどに薬液を吸入する)。
- 声の安静~沈黙療法(声を出さないこと)
- 発声の仕方の見直しなどの音声治療(提携病院に紹介します)。
- ラリンゴマイクロサージャリー(喉頭微細手術)(提携病院に紹介します)
胃食道逆流症・咽喉頭逆流症
1)胃食道逆流症
“胸やけ”に代表される「胸のあたりが重苦しい」「胸にこみあげる熱い感じ」、「胸やのどがひりひりしみる」などの症状は胃の内容物(主に胃酸)が食道に逆流するために起こる現象で、「胃食道逆流症」(GERD)と呼ばれています。
原因としては次の3つが考えられています。
- 胃と食道の間には逆流を防止する筋肉(括約筋)があるのですが、この働きが悪くなっている
- 最近の欧米風の高脂肪食などにより胃酸が出過ぎた状態になっている
- 食道から胃に食物を送り込む機能(蠕動運動)が低下している
治療は薬物治療が主体で、以下のお薬を単独あるいは組み合わせて内服します。
重症の場合、胃と食道の間を縫い縮めて補強する腹腔鏡手術もあります。
- 胃酸分泌抑制薬:胃酸の分泌を抑える薬です。プロトンポンプ阻害薬(PPI)とヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)の2種類があります
- 消化管運動機能改善薬:逆流した胃酸を胃に戻し、胃の運動も改善し胃からの内容物の排出を促進します
- 粘膜保護薬:傷ついた食道粘膜を保護し、胃酸による影響を緩和します
2)咽喉頭逆流症
胃食道逆流により、胃の内容物が咽頭腔にまで達して、主に下咽頭と、喉頭に合併症を引き起こしたものを、咽喉頭逆流症と言います。
逆流するものは 胃の内容物(胃液、摂取物、服用薬剤)で、特に胃液による酸性の刺激、胆汁によるアルカリ性の刺激が問題となります。
咽喉頭逆流症は胃食道逆流症の一部とも考えられがちですが、その病態は必ずしも同じではなく、逆流性食道炎をきたさない程度の比較的弱い酸が咽喉頭に逆流しても、咽喉頭逆流症をきたすことがあります。
症状は、のどのイガイガ感、つまる感じ、胸やけ、ゲップ、咳や咳払いが多い、などです。
治療は胃酸を強力に抑える薬(プロトンポンプ阻害剤:PPI)がよく効きますが、のどの状態の改善を目的とするには、PPIを長く(3ヶ月以上)飲み続ける必要があります。
のどに発生するがん
1)発症年齢
以前から、喫煙歴・飲酒歴のある中高年者では、咽頭がん、喉頭がんの発症するリスクが高いことが知られていましたが、近年、上咽頭や中咽頭のがんの発症にウイルス感染が関わっていることが明らかになってきており、これらは他の咽頭がん、喉頭がんに比べて若年者に発症することがありますので注意が必要です。
2)症状
がんの時に見られる症状としては、嚥下困難、のどの出血、嗄声などがあります。
こういった症状がある時には咽頭がん、喉頭がんの可能性を疑って、内視鏡(喉頭ファイバースコープ)等で詳細に観察します。
くびに硬いリンパ節が触れるときには、がんによるリンパ節転移を疑って、詳しい検査をすることになります。
日常的によくみられる耳、鼻、のどの症状であっても、症状が一側性、持続性であれば、がんが原因になっていることがあります。以下に例を挙げます。
- 一側性の耳閉感・難聴が、中年、若年者で見られた場合には上咽頭がんの可能性があります。
- 耳痛があり、耳に所見がない場合には、中咽頭がん、下咽頭がんに伴う放散痛のことがあります。
- 一側性の鼻づまりや・鼻出血があるとき、上咽頭がんの可能性があります。
- 咽喉頭異常感が一定の場所に続いており、軽度でも嚥下痛を伴う場合には、下咽頭がん、中咽頭がん、喉頭がんの可能性があります。
ここに注意
初診時に異常が見つからなくても、経過観察中にがんなどの異常が見つかることがあります。
症状が続いている場合は、放置せずに受診していただくことが大切です。
反回神経麻痺
- 声帯が動かなくなって、発声の際に声帯が完全に閉鎖しないために、音声障害や嚥下障害がおこる病気です。
- 声帯の運動を支配するのは、迷走神経(めいそうしんけい)の枝の反回神経です。この反回神経がなんらかの原因によって損傷し、声帯を正常に動かせなくなってしまったために、うまく発声できない状態を指して、反回神経麻痺と呼んでいます。反回神経麻痺には、左右どちらかの声帯を動かせなくなる片側声帯麻痺と、左右両方の声帯を動かせなくなる両側声帯麻痺があります。
- 片側声帯麻痺では、声門が完全に閉鎖しないためにすーすーと息がもれる気息性嗄声(きそくせいさせい)になります。声帯の位置が外側に固定されるほど嗄声が高度になり、食事を飲み込んだ際に、一部が気管に流入してむせる、誤嚥が起こりやすくなります。
- 両側声帯麻痺の場合は、吸気時に声門が大きく開かないので、音声障害よりも呼吸困難が主な症状になります。
- 診断は喉頭内視鏡検査(喉頭ファイバースコピー)で声帯の運動を観察して行います
- 左側の反回神経のほうが走行経路が長いのでその分、障害を受けやすく、喉頭神経まひは、左側に多いといえます。
- 反回神経の損傷は、手術、事故や怪我、急性感染、神経の病気によってもたらされますが、検査をしても原因を特定できない特発性のものの割合がおおいです。
- 通常、麻痺の発症から6カ月経過しても症状の改善がない場合は、機能改善手術を行います。誤嚥などの症状が強い場合には、その時期を早めることもあります。
- 発声時の左右の声帯のすきまが小さい場合は、音声訓練が有効なこともあります。両側反回神経麻痺による気道狭窄に対しては、気管切開、片側声帯の外方牽引術などが行われます。