治療の実際 見てわかる鼻の病気
1. 鼻の内視鏡検査
鼻の中は狭い上にかなり奥行きがあって、肉眼では手前の部分しか見えません。鼻の中を奥まで詳しく診るためには内視鏡を用います。
内視鏡には硬性内視鏡と軟性内視鏡(ファイバースコープと電子スコープ)があります(⇒各種機器の画像はコチラ)。
- 硬性内視鏡は把持しやすく、視野も広角ですので、鼻の入り口(鼻毛の生えているあたりまで)に入れて、鼻の手前から中ほどを観察するのに向いています。
- 軟性内視鏡は先端が細くてよく曲がるので、鼻の中に入れて鼻からのどまで詳細に観察することができます。近年主流の電子スコープはこれまでのファイバースコープよりも鮮明な画像が得られ、中でも当院が使用している極細径の電子スコープは鼻腔が狭い方や乳幼児でも検査が可能です。
-
54歳女性
左鼻腔内
急性副鼻腔炎
黄色の膿汁(ピンク矢印)が中鼻道(赤の矢印)内に見えます。中鼻甲介(青矢印)、鼻中隔(緑矢印)。 -
60歳男性
右鼻腔内
急性副鼻腔炎回復期
透明な淡黄色の粘性鼻汁(ピンク矢印)が中鼻道(赤矢印)内に見られる。中鼻甲介(青矢印)、鼻中隔(緑矢印)。 -
53歳女性 左鼻腔の奥。
急性副鼻腔炎。
中鼻道に膿汁が見られ、のどに向かって帯状に流れています(赤点線)。左耳管咽頭口(ピンク矢印)。 -
54歳女性 左鼻腔の奥
慢性副鼻腔炎の急性悪化。
膿汁が鼻の上方(上鼻道)から流れています(赤矢印)。左耳管咽頭口(ピンク矢印)。中鼻甲介(緑矢印) -
64歳男性 左鼻腔内。
慢性副鼻腔炎。中鼻道に塊状の鼻茸(ピンク矢印)が見られます。
下鼻甲介粘膜(黄矢印)、鼻中隔(緑矢印)。 -
28歳女性 右鼻腔内。
好酸球性副鼻腔炎
中鼻道は房状の鼻茸(ピンク矢印)で塞がれている。中鼻甲介粘膜(青矢印)、鼻中隔(緑矢印) -
76歳女性 左鼻腔内。
中鼻道には、手前にぶらさがる大きな鼻茸(ピンク矢印)があります。中鼻甲介粘膜(青矢印)、下鼻甲介粘膜(黄矢印)、鼻中隔(緑矢印)。 -
小児例(6歳男児)
左鼻腔から上咽頭を見たところ。
急性副鼻腔炎もあり、膿性後鼻漏がアデノイド(赤矢印)上にたまってから、のどに流れています。左耳管咽頭口(黄矢印)、鼻中隔(緑矢印)。 -
小児例(7歳男児)
左鼻腔から上咽頭を見たところ。
左耳管咽頭口(黄矢印)を覆うようにアデノイド肥大(赤矢印)があります。患児の左耳は難治性の滲出性中耳炎で経過観察中。鼻中隔(緑矢印) -
成人例(27歳男性)
右鼻腔から上咽頭を見たところ。
いびきが強く睡眠時に無呼吸になることもあります。アデノイド肥大(赤矢印)、右耳管咽頭口(黄矢印)、鼻中隔(緑矢印) -
65歳男性
鼻中隔前方の粘膜直下に、こぶ状に膨隆した微小血管(青矢印)が見られ、わずかな刺激で破綻して、出血が始まります。 -
麻酔薬をしみこませた綿花を置いて塗布麻酔をし、電気凝固しました(黄矢印)。
-
14歳男性
鼻中隔前方に線状に膨隆した血管の走行が見られ(青矢印)、軽微な刺激で出血します。 -
麻酔薬をしみこませた綿花を置いて塗布麻酔をし、膨隆した血管を電気凝固しました(黄矢印)。
-
44歳女性
レーザー治療中(右鼻腔内)。
チップの先からの赤い光をガイドにして下鼻甲介(青矢印)にレーザーを照射します。鼻中隔(緑矢印)。 -
38歳男性
レーザー治療中(左鼻腔内)。
レーザーは下鼻甲介(青矢印)に照射します。鼻中隔(緑矢印)。
当院では内視鏡検査の結果を、静止画、動画ともにデジタル記録して患者さんに見ていただきながら、
現在の病状、これまでの経過、治療方法等について説明いたします。
2. 鼻の中の構造
鼻の中はひだ状の構造になっていて、手前に見えるのが下鼻甲介、その奥に見えるのが中鼻甲介で、この二つのひだの間を中鼻道といいます。鼻腔は鼻中隔で左右に仕切られています。
●健康な鼻では下甲介粘膜の腫れや鼻汁は見られません。
鼻の中の見え方(健常例その1)(硬性内視鏡による)
4歳女児
下鼻甲介(黄矢印)、中鼻甲介(青矢印)、中鼻道(赤矢印)。鼻中隔(緑矢印)。
鼻のまわりには、副鼻腔という空間があり、鼻腔内には副鼻腔につながる連絡口があいています(注記1)。連絡口のひとつである中鼻道は位置的に観察しやすく、ここを見て副鼻腔炎の有無や程度を推察します。
(注記1:上顎洞、前頭洞、前部篩骨洞は中鼻道に開口し、後部篩骨洞、蝶形骨洞は上鼻道に開口します。)
●健康な鼻の中鼻道はきれいに開いています。
中鼻道の見え方(健常例その2)(鼻腔用電子ファイバースコープによる)
65歳男性
下鼻甲介(黄矢印)と中鼻甲介(青矢印)の間に中鼻道(赤矢印)が開いています。鼻中隔(緑矢印)。
3. 見てわかる、鼻の病気
では、代表的な鼻の病気の内視鏡画像を見ていきましょう。
アレルギー性鼻炎には、季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)と通年性アレルギー性鼻炎があり、下鼻甲介粘膜が腫れるのは共通していますが、粘膜の色合いは異なっていて、季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)では、粘膜は赤く腫れるのに対し、通年性アレルギー性鼻炎の粘膜は蒼白です。
アレルギー性鼻炎では鼻水はサラサラで水っぽいですが、かぜをひくなどして急性副鼻腔炎を併発すると、白く濁った鼻水になります。
●アレルギー性鼻炎症例を3つお示しします。
季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)(CASE 1)
58歳女性
下鼻甲介粘膜は赤く腫れて隙間がほとんどなく、奥にある中鼻甲介は全く見えません。鼻汁は水っぽくてサラサラです。下鼻甲介(黄矢印)、鼻中隔(緑矢印)。
通年性アレルギー性鼻炎 (CASE 2)
36歳女性
下鼻甲介が腫れているのは季節性アレルギー性鼻炎と同じですが、通年性アレルギーの粘膜の色調は蒼白です。下鼻甲介(黄矢印)、鼻中隔(緑矢印)。
副鼻腔炎を伴ったアレルギー性鼻炎(CASE 3)
7歳女児
通年性アレルギー性鼻炎で治療中であるが、かぜをひいて急性副鼻腔炎を併発。膿性鼻汁が認められます(赤の矢印)。下鼻甲介(黄の矢印)、鼻中隔(緑の矢印)。
急性副鼻腔炎では黄色~黄白色の膿性の鼻汁が見られます。この膿汁は、副鼻腔が鼻腔につながっている、中鼻道や上鼻道を伝って出てきたもので、のどに向かって流れていきます。この、のどに流れる鼻水を後鼻漏といいます。
内視鏡(電子スコープ)で、膿性鼻汁が見られた場合や、膿性後鼻漏が見られたら、急性副鼻腔炎(あるいは慢性副鼻腔炎の急性増悪期)を疑います。鼻汁や後鼻漏の出所(中鼻道からか、上鼻道からか)が追跡できると、副鼻腔炎の起こっている場所も推測できます。
●中鼻道に膿汁がある症例をお示しします。(CASE 1.2)
急性副鼻腔炎膿汁(中鼻道内)(CASE 1.2)
●後鼻漏がある症例(中鼻道からを1つ、上鼻道からを1つ)をお示しします。(CASE 3.4)
膿性後鼻漏(CASE 3.4)
副鼻腔粘膜が水っぽく膨らんで、鼻腔との連絡口から鼻腔側にはみ出したものを鼻茸(はなたけ)といいます。鼻茸は、副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎、気管支喘息の人に見られることが多く、感染とアレルギーが鼻茸発症の原因と考えられています。内視鏡で中鼻道に鼻茸を認めれば、慢性副鼻腔炎を疑うことになります。
●鼻茸の症例を3つ、お示しします。(CASE 1.2.3)
鼻茸(CASE 1.2.3)
鼻の突き当りはのどの一番上にあたり、上咽頭といいます。
上咽頭の両サイドには耳管の開口部(耳管咽頭口:じかんいんとうこう)があり、耳とつながっています。
上咽頭には咽頭扁桃(アデノイドともいいます)、耳管扁桃などのリンパ組織があり、アデノイドが特に大きい状態を、アデノイド肥大といいます。アデノイド肥大があると、鼻づまり、いびき、口呼吸を生じやすく、睡眠時無呼吸症候群を起こすこともあります。また、アデノイド肥大が鼻水の流れを妨げるために慢性副鼻腔炎が起こりやすくなり、耳管咽頭口を圧排している場合は耳管の働きが妨げられて滲出性中耳炎が起こりやすくなります。アデノイドは通常、幼児で最も大きく、成長とともに次第に小さくなりますが、大人でもアデノイドの遺残が見られることがあります。
●アデノイド肥大症例を幼児で2つ(CASE 1.2)、大人の症例も1つ(CASE 3)お示しします
アデノイド肥大(CASE 1.2.3)
鼻中隔粘膜の前の方、ちょうど小鼻の内側あたりには、毛細血管が網の目のように密集した部分があります(キーゼルバッハ部位)。鼻血のほとんどはこの部分が傷ついて出血します。繰り返し出血するうちに、毛細血管の微細な傷だったところがこぶ状に変化して、ちょっとした摩擦でも出血しやすくなっている場合や、血管が所々で傷ついて隆起している場合などは、電気で出血点を凝固します(電気焼灼)。局所麻酔(綿花に麻酔薬をしみこませたものを10分程度鼻の中に軽く詰めます)をしてから行いますので、痛みはありません。予約なしで通常の診療時間中にできます
●鼻出血の治療で、電気で焼灼した症例を2つ(CASE 1.2)お示しします。
鼻出血(CASE 1.2)
4. 内視鏡のレーザー治療への活用
耳鼻咽喉科内藤クリニックではアレルギー性鼻炎のレーザー治療に取り組んでいます。
当院においては、レーザー治療は開院当初から内視鏡下で行っています。レーザー手術時には、硬性内視鏡で鼻腔内をモニターしながら、下鼻甲介粘膜表面を手前から後方にかけてレーザーで焼灼していきます。内視鏡で良好な視野を得ることができますので、肉眼で行うより安全かつ確実に実施することが可能になります。
●レーザー治療中の鼻の中をお示しします。(CASE 1.2)
アレルギー性鼻炎のレーザー治療(CASE 1.2)
実際のレーザー治療を動画でご覧ください。
最初は手術用顕微鏡を用いて、下鼻甲介粘膜のごく手前をレーザーで焼灼します。焼灼により、手前の腫れが引いて奥が見やすくなったところで、硬性内視鏡(鼻腔鏡)に切り替えて、モニタ画面を見ながら、下甲介粘膜をさらに後方までレーザー焼灼します。所要時間は10分以内です。